〜6〜

急に葉琉の動きが止まった。飛鳥はやっと葉琉に追いついた。

すると、葉琉が教室の入り口近くで立ったまま動かない。

「おい、葉琉どうした?」

飛鳥は、葉琉の肩に手を乗せた。

微かに葉琉の肩が震えている。なんだ?飛鳥は、葉琉の見ている方を見た。

「!!なんだよ・・・これ・・・・」

葉琉が見つめている先には、教室が荒らされ、クラスの奴らが床に倒れている。誰がこんなこと!

すると、葉琉が倒れている一人のもとへ駆け寄った。

「おっおい!葉琉!何する気だ!」

「シッ!」

よく見れば葉琉は倒れている奴の首に手を当てて脈を測っていた。

「・・・・・良かったぁ」

葉琉はホッとしたのか、薄っすらと微笑んだ。

どうやら、大した事は無いらしい。飛鳥は、葉琉に近づこうとした。

しかし、急に目の前がふら付きそのまま倒れてしまった。

何・・・・・だ・・?ドサッ

「飛鳥!」

*****

「オイッ!飛鳥しっかりしろ!オイ!」

何でだ?何でみんなが倒れてるんだ!しかも飛鳥まで!

クソ!どうすれば、どうすればいいんだ?葉琉は、動揺して何も考えられなかった。

すると、葉琉の足に何かがあった。!これは・・・催眠スプレー!!という事は!

「クソッ」

葉琉は急いで飛鳥を担いで教室を出た。何とか飛鳥だけでも目を覚まさせなければ!

葉琉は手洗い場へ向かった。しかし、葉琉の体力はそこまで持つ余裕はあまり残っていなかった。

もう少し、もう少し・・・葉琉は最後の力を振り絞って走り出した。

手洗い場に着いた葉琉は、急いで飛鳥に水をかけた。

そんなに吸ってないといいが。お願いだから、早く目を覚ましてくれ!

「ゴホッゴホッ・・・・・ん?あれ?なんで俺こんなところにいるんだ?」

「飛鳥!!」

葉琉が飛鳥に飛び掛って抱きついた。

「え?え?」

飛鳥は、あまりに突然な事で頭が混乱してきた。

「良かったぁ、よかったぁ。」

よく見ると、葉琉は半泣き状態で今にも泣きそうな顔になっていた。

「大丈夫か・どこも痛くないか?気分は悪くないか?」

「あ、あぁ。大丈夫だ・・け・ど、あの、そろそろどいてくれないか?」

「え?・・・・・・・・・!!」

葉琉はハッとして飛鳥から離れた。

「葉琉が俺のために泣いてくれるなんてなぁ。」

飛鳥は、ニコニコしながら、葉琉をおちょくった。葉琉は急いで涙を拭いて飛鳥をにらんだ。

すると、葉琉は、何かを思い出したように、

「あ!こんな奴と喋っている暇はなかった!急がないと!」

そう言って、春は走って行ってしまった。

「ちょっ、待てよ!おい葉琉!俺を置いて行くなぁ」

でも、その叫びはむなしい事に今の葉琉には聞こえない。

なぜなら、今の葉琉は頭の中で事件の鍵を探ることに集中しすぎて、

周りの声や音に聞き耳を立てなくなっているからだ。

くそっ!誰なんだ!誰があんな事を?どうやって学校にあんな大量の催眠スプレー持ち込んだんだ?

あんなに大量のスプレー缶をバックに隠し持っていたとしても、周りの奴らが変に思うだろう。

なのに誰一人として気付かなかったなんて!あり得ない!何故だ?何故なんだ!絶対に突き止めてやる!

葉琉は急いで教室に戻った。

「・・・・・・・き、消えてる!!みんな消えてる!・・・・」

さっきまで、みんなここに倒れていたのに・・・・・どこへ行ったっていうんだ!

すると、葉琉は黒板に何か書かれていることに気付いた。

“次はお前の大切な者を狙ってやる。さて、どうするかな?”

「くそっ!なんだよこれ!一体何が起きてんだよ!」

次はお前の大切な者?・・・・・まさか!飛鳥が危ない!

葉琉は急いで手洗い場へ戻った。飛鳥はどうか無事でいてくれ!

しかし、飛鳥の姿はどこにもなかった。

「・・・・・・・あ・・す・・・か?冗談だろ?

おい、どこにいるんだよ!おい!飛鳥!」

どうして、俺の周りの奴ばっかり居なくなるんだよ・・・俺の牲だ・・・俺の牲でみんな・・・

葉琉の頬に涙がつたった。

「何ないてんの?葉琉?どうした?」

葉琉が顔を上げると、そこには、飛鳥が立っていた。

へ?へ?犯人に連れ去られたんじゃないの?

「・・・・・あずがぁグスッ・・無事だったのがぁ・・・・グズッ・・よがっだぁ・・・よがっだよ〜」

「おいおい何でそんなに泣くんだよ!泣くなよ、俺が悪かったって。

でも、ちょっとトイレに行ってただけなんだけど・・・・。」

は?トイレに行ってた?ハァ?なんかだんだんムカついてきた!泣いていた俺がバカみたいだ!

「は、葉琉?」

飛鳥はあるの怒りを感じ取ったのか焦りだした。

「・・・・・・トイレに行ってた?はぁ?お前は一体何を考えてんだ!この状況でよくトイレなんて行けたなぁ!

人がどれだけ心配したか分かってんのか?俺はお前が居なくなったらって・・・思ってたんだからなぁ・・・」

また、葉琉は泣き出した。

「だから、ごめんって言ってるだろ。なっ、葉琉、だから泣きやんでくれよ。」

「うっざい・・・・バガァ!・・・・・・・もう、どっかいけ!・・」

どうして泣き止めないんだよ!しかも相当飛鳥に顔見られてるし!もう最悪だ!恥ずかしすぎて死にそう!

それから葉琉は、一時泣き止めなかった。




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