〜8〜
今日は入院初日。千客万来でした。
まず、私の両親が面会時間になって一番に来ました。
なんだか、分けの分からない言葉を並べ、踊っていました。
ねぇ、もういい年なんだから、と思って止めようとしたころ、
旦那さんのご両親が――こちらは静かにお見舞いらしく来てくださいました――私の両親を落ち着かせてくださり、
持ってきてくださった花束を飾ってくださいました。
もー心から感謝感激ですよ。
お花を飾り終わって静けさが戻ってきたなぁーと思った頃、
和のご両親がドアをぶち破るぐらいの力でドアを開け、転がり込んできました。
どんな風に入ったらそうなるのですか?と疑問を浮かべたくなるほど不思議な入り方でした。
その時、和のご両親が手にしていた花とクッキーは見る影もなく・・・。
その後ろからは、旦那さんがはいってきて、会社に行きたくないとダダをこね始めて、
また騒がしくなり始めた頃、
あきれた顔で看護師さんが入ってきて、注意されて数十分――
やっと今、私と旦那さんと和のご両親は帰り、
旦那さんはようやく会社に行くと頷き、名残惜しそうに出てゆきました。
今は騒がしい嵐が嘘のように静かになりました。
やっと落ち着けます。
今日はこの前の続きを書きたいと思います。
私の両親と和のご両親が私の笑いで我に返って数分の沈黙がありました。
一番に口を開いたのは、和のお母さんでした。
「あのね、美季さん。私たちにもよく理由が分からないの。」この一言で、私は胸が痛くなりました。
もう理由は分からないの?と後悔が胸に広がったからです。
多分この時私は泣き出しそうな顔をしていたのでしょう。
和のお父さんが私の手を握って、
「美季さん、まったく分からない訳ではないんです。ただ、信じにくいことなので・・・。」言葉を濁しながら言う。
これはどういう意味なのだろう?と安堵の気持ちよりも、疑問が先に浮かび上がった。
和のお父さんは少し間をおいて、
「それに、私たちはまだ和の日記をよんでま・・・あ!日記!」と言うといそいで部屋を飛び出していきました。
その速さといったら、すごかったですよ。
ドンドンガラ、ガシャーンとやばそうな音とともに、叫び声。
私の両親も和のお母さんも呆然とその音に耳を傾けていました。
えっと、破壊工作中ですか?と思えるぐらいすごい音だったんです!
それからちょっとして、音がやみ、部屋のドアが勢いよくあいた。
和のお父さんは手には、文庫本ぐらいの大きさで、外側が綺麗な青色のハードカバーの本が一冊握られていた。
和のお父さんの顔といったら、無邪気な、子供みたいな笑顔だった。
和のお父さんは私の目の前に座り、
「そうです、日記!日記が読めるんですよ!これで、和がどうして貴方の元へ行ったのか、理由がはっきりしますよ!
たとえ、にわかに信じがたい理由でも。」
と、独白なのか私に向かって言っているのか分からない様な喋り方でした。
和の日記・・・。
いったいこの中には何が詰まっているのだろう?
信じがたい理由って?
それよりも、和のご両親は何故日記のことを忘れて・・・
いや、もっと早く読まなかったのだろう?
こんなにも理由を知りたがっていたのに。
日記にその理由が記されていると知りながら・・・。
その疑問に答えるように和のお母さんが口を開きました。
「和は病気で入院したその日から、旅立つまで日記を書き続けました。私たちは一切その中を見せてもらえませんでした。
それに、貴方の所へ行く理由も・・・。
私たちが理由を聞いて和が言うのは
“全ては日記の中だよ。そして、この日記の中身は僕の大切な子が開けて、
読み終わるまで母さんにも、父さんにも見せたくないんだ。”と。
私たちは和の意思を無視してまで読むつもりはありませんでしたし、
今もと〜っても気になるけど、貴方がこれを開いて読み終わるまで中身を読むつもりはありません。」
きっぱりとそう言い切った和のお母さん。
それに頷く和のお父さん。
私の目の前に出された、青い日記。
なんて強い人たちなんだろう。
そう思った。
和のことをこんなに思っているご両親なら、絶対に気になっている理由。
手元にあるのに、その理由を知ることが、いとも容易く叶うはずなのに、決して開けなかった。
カズノイシヲタイセツニシテ・・・。
うわぁーなんだか話が重い・・。
この思い出、書くのをやめようかな?あまりに重たいし・・・。
それに、お話が重いのか、私がこの病院生活および出産に不安があって文がなんだかいつもと違っている・・・。
そのためか、一層重いように感じられる・・・。
今日はこの辺でやめようと思います。
あの嵐の時が一番安心できたし、心が静かで包まれていた、
と静かなこの時に、大きな不安と、心の嵐に巻き込まれながら思う今日この頃です。
予定日まで二十四日です。
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