〜10〜
今日は、また和の夢を見ました。夢の中で和は
「死んで、生まれ変わって、魂が同じ、顔も、思考も同じ。だけど、きっとその人は・・・。」
その後は全然思いだせない・・・、けど、なんだか昔聞いたことあるような、ないような(笑)
最近和の夢をよく見るような・・・。
もしかしてお腹の子は・・・あはは。
昨日の続きかくぞー!!
ゆれる心を、ふと外の世界に意識を向けてみました。
何故ならとても周りが静かだったからです。
案の定、私の周りには誰もいませんでした。
しかし、少し離れた部屋からかすか・・・とは言いがたい物音と、話し声が聞こえてきたので、
気を使ってくれたみたいです。
嬉しいような、寂しいような・・・。
私は、和のお父さんが作ってくださったジュースをズズズ〜と音を立てて最後まで飲み干しました。
そして、大きなため息。
和が私に会いに来た理由。
それは“生きる”ためだった。
根拠も何も無い、夢物語のような、現実離れしていることを信じて・・・。
許せるけど、なんだか、なんだか。
手に持った青い本を静かに閉じました。
そして、もう開けたくないなぁ〜と思いました。
そう思うと同時に、急に投げ捨てたい衝動に駆られました。
もう、持っているのも嫌に思えて、持っていることで何かを失くしそうだったからです。
その時ふと頭に浮かんだ疑問がありました。
「どうして、私に会おうとおもったの?」小さい声で呟いていました。
どうしてだろう?
和は私だって思ったのだろう?
病室以外で会ったのかな?
と疑問は途切れることなく出てきました。
そして、同時に答えのありそうな場所が分かってきました。
今さっき、もう開けたくないと思った和の日記帳です。
開けたくない、けど知りたい。
私は、好奇心には勝てませんでした。
いや、好奇心だけではなかったのかも知れません。
とにかく、再び震える指で日記帳を開きました。
さっき読んだ次のページを開き、大まかに目を通しました。
どうしたら生き永らえるのか―何が起こるのだろう―あの夢の声は僕に何かを教えてくれないだろうか・・・
ページをめくることに目に飛び込んでくる言葉たち。
言葉はまだ荒く、生きることに関して書いている文字が多い。
僕らは会って何か起こるのだろうか―あの子はどうなるのだろうか―病室に入りにくい―何故かためらってしまう―胸が痛い・・・。
私と出会う前は不安で一杯だったんだね。
あの子はどうして生きることを諦めているのだろう―
あの子にとって僕は、初めて会った人のはずなのに、如何して色々と話してくれるのだろう―
僕はあの子を利用しようとしているのだろうか・・・。
不思議で仕方なかったんだね。
生きることを諦め、死の準備について話したことが。そして、私に少し心を傾けてくれたんだね。
あの子は美しい季節と書いて美季かぁ―美季の写真にまだ笑顔がない―覚悟を決めている美季を見ると胸が変な感じになる―
何故か僕は祈っている時がある「どうか一日でも長く美季を・・・」と―
美季は僕がそばにいても一人でいるみたいだ、だから僕はなるべくそばに居たい―僕は笑っていよう、美季が笑えるように・・・。
私が知っている和の言葉たち。
ねぇ、この気持ちに嘘はない?
本当?
ここに書いてある言葉たちは、真実の言葉なの?
暖かな和の言葉。和の気持ち。とても嬉しい。
美季が初めて微笑んでくれた―
美季が花畑にいる時、あまりに幻想的すぎて、失ってしまうのではないかと心配で、時間が勿体なくって一心に写真を撮り続けた―
僕は、まだ願いを叶えてもらいたい、でも全ては捨てられない―
僕は美季を犠牲にしなきゃ生きられないと言われた―僕は、僕は、一人は、い、嫌だ・・・。
和、和、かず。
思ったことは沢山あったと思います。
けれど、あまりに胸から溢れ、こぼれて行くので、
まとまった思いは浮かんでこず、ただただ“和”と名を連呼し、苦しい思いをするだけでした。
我儘な僕は、二人の命を望んでしまう。二人でいたい、二人で未来が作りたい、二人で生きたい―
僕はあの夢を見て、告げられた。僕と美季はもう長くない、と。選ばなければならない、と。僕は、ドウシタラ―
僕は、美季に生きて欲しい。それが僕の願い。怖い。怖いけど、生きたいけど、何故かそう望んでいる・・・
日記はここまででした。
私はこの時、何も考えることなく涙を流し、嗚咽を漏らしていました。
数分後、心も落ち着き、日記帳をもう一度読み直しました。
しかし、私の望む答えはありませんでした。日記の中には、ですけどね。
実は最後のページに私宛の文が書かれていたのです。手紙として・・・。
美季様へ
これを読む頃にはお葬式は終わっているでしょうか?
僕はあえてこの日記に美季への手紙を残します。
美季は、僕が何故この日記を君に残したのか、疑問に思い、読んで、嫌な思いをしたと思います。
これは、僕からの最後の嫌がらせです。
酷いでしょ?
嫌なやつでしょ?
だから、僕のことは“思い出”として、君と過ごした綺麗な日々だけを覚えてください。
“三瀬 和人”としてではなく、君といた“和”として覚えていてください。
もう一つ、日記を残して手紙を書いた理由は、何故僕は君に会おうと思ったのかを、書いておこうと思ったからです。
僕は、君に病室で会う前に会っているんです。
美季は多分覚えていないだろうね。
あの日、僕は病気をする一年前、そう九歳の春だった。
僕は、ある男の子を虐めていた。
そんな時、君はやってきた。
そして、僕らは驚いた。
君は、虐められていた男の子の胸ぐらを掴んで、立たせ、揺すって、怒鳴り散らして、
バシーンと思いっきり背中を叩いて、優しい声で
「頑張りなさい。私がいる」と言って、笑顔で立ち去っていった。
僕らを見ることは無かった。
あの夢を見た後、この光景が、君の笑顔が思い出された・・・。
その時会いに行くべき子がこの子だと思ったんだ。
美季、僕はこれまでしか文字がつづれそうに無いです。
まだ書きたいのに・・・。
文字は弱弱しかったです。
和、あんたって馬鹿だ!日記一つでそんな風に思えるわけ無いのに・・・。
それに、和。貴方っていじめっ子だったのね!
あの虐めていたのが貴方だったのね。虐められていた方じゃなくって・・・。
じゃああの時おデブちゃんだった・・・。
と、変なところで落胆していたような気がします(笑)
そのため、この手紙には続きがあることに、一時気づきませんでした(笑)
PS
どこまで書けるか分からないけど、最後にメッセージ
美季は苦しむかも知れないけど、生きて欲しい。
強い瞳で未来を見て欲しい。
そして、美季に笑っていて欲しい。
美季は“生きる”ことを諦めた。
だから、もう一度見つめて欲しい。
ゴメンネ美季。
僕はただ自分のために、生きたいために、君を、美季を利用しようとした。
そして、こんな最後に僕は沢山のことを押し付けるような言葉ばかりつづっている・・・。
美季、最後の最後僕の我儘を許してください。
そして、美季
この後は白紙でした。
和は和は、何一つ私には押し付けてはいませんでした。
何一つ押し付けず、そっと去っていった。
そう、この手紙を読み終わって思いました。
確かに、勝手に逝ってしまって、私を残したことは、押し付けられましたが、
それ以外は、ただただ自然に、プレゼントを私のそばに置くだけのようなものでした。
あ!和、貴方が、本当に言いたかったことって、もしかして・・・だから夢に――――――――――――
次 お話 ほーむ